『夢幻空花』 一、 此の世界の中で/積 緋露雪00
 
心ゆくまで愉しんでゐたのである。
 さうすると、もしかすると人生の醍醐味は誤謬にこそ潜んでゐるのかもしれぬといへる。誤謬することで私はどれほどの”自由”を愉しんできたことか。そもそも誤謬してゐるから気が楽で、仮に間違ってゐても誤謬故に端から間違ってゐるので気にする必要はなく、その気楽さが更に私を自由にさせ、つまり、心には重力からの解放が齎されるのであった。
――重力からの解放?
 確かに誤謬に夢中遊行(いうかう)すれば、心は重力から解放されるが、しかし、それは解放された振りに過ぎず、重重しい肉体は相変はらず重力に縛り付けられたまま地べたに佇立してゐるままである。意識のみが仮象の中で重力
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