鏡像 【改訂】/リリー
朝。首をスヌードへすく
める私の耳に響いたクラクションで振り返ると、広い車道から縁石へ寄せて
来る赤い4WDのコンパクトカー。
「あだちぃ、おはよ! 乗ってき!」
運転席の開いた窓から、出勤途中に呼び掛けてくれる木崎さん。
「おはようございます! ありがとう」
彼女は同じ職場で四歳年上の先輩である。
「何や、あんた、その鞄。登山行くみたいやで」
「いえ着替えが入ってるんですよぉ」
「入浴介助の中当番か?」
「そうそう」
私のリュックが、パンパンなのを納得してくれた。二人は、琵琶湖を一望で
きる高台に建つ高齢福祉施設「××老人ホーム」の従業員。平成十二
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