鏡像(4)「あだっちゃん」?/リリー
棟へ向かう
私も旧館の寮母室へ戻ろうとした廊下でいきなり立ち塞がる
四つ歳上の先輩
「あだちぃ、お前これ!この丸襟、これも、
これもパジャマちゃうんか?」
ユニフォームからのぞく
赤いサテンステッチの刺繍が可愛い丸首の襟を、
先輩の指先が摘む
「何言うてはるんですか!人聞き悪いなぁ。
れっきとしたトレーナーですって。」
目で 笑い返す私へ
籠る笑いに歪む 先輩の口元
「あたしの目には分かる!お前、いつなったら
パジャマ脱いで出勤するんや?」
「いや、だからあ…。春なったら、ですよ。」
究極の寒がり女の足元は一目で分かる柄物のスキー用靴下
二人は 廊下で別れ配属先の業務に就く
食堂ホールに面した外廊下を通る時、
硝子の大窓へ映る中庭の芝生が細かい雨で濡れ始めていた
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