のらねこ物語 其の二十六「御神籤」/リリー
へ戻ろうとする
そこへ 何処から現れたのか近づいて来る一匹の猫
「あら?…、あ、この猫、この間の茶トラじゃないの!」
おりんは三味線屋の勇次と一緒だった時、
石のベンチのそばに丸まっていた猫だと気付くのだ
猫は おりんを見上げ足許にすり寄ってきたのだった
「可愛い猫ね。」
しゃがむおりんに猫は短く鳴いた
頭を撫でようとすると
大人しく小さな声で また鳴いて
おりんの手のひらへ頭を寄せるのである
「お腹空いてるのね?いらっしゃいよ。」
おりんの言葉に 猫はまるで分かるのか
後ろから店まで付いてきたのだった
厨で イワシが来た時に残飯を入れているアワビ皿を
ゴソゴソ探すおりんに
土間へ降りて来たおきぬが声を掛ける
「あんた、何してるのさ?お嬢様が、お稽古事からお帰りだよ!
さっさとお茶菓子、お持ちしなっ。」
叱るおきぬが厨の入り口の隅にいる猫に気付き
「あれ?あれまあ、この猫!イワシと一緒だった、いつかの
茶トラじゃないのかね!」
驚いて眺めるのだった
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