のらねこ物語 其の二十「木彫りの虎」(一)/リリー
「おい、近江屋。お前んとこの金魚の掛け軸、えらい評判
じゃないか。」
店先でお客様をお見送りした主人へ同心が声を掛けてきた
「あ、これはこれは八丁堀の旦那。はい、手前共もまったく
信じられないことでございます。」
「俺も一つ、拝ませてもらおうか。」
奉行所の役人が店の奥を覗き、帳場格子のわきの壁に
吊るしてある掛け軸へ目をやると
「それがでございますね…、このところ金魚はまったく
泳がなくなりまして。」
「どうしてだ?」
「分かりません。もう動かないのかもしれません。」
困った顔をする主人
不思議がる同心の背中に突如浴びせられる突
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