のらねこ物語 其の十九「近江屋」/リリー
 

 おりん達は「旅の御隠居」としか答えよう無かったのだ

 そんな馬鹿な事、あるわけがない
 客人達も最初は相手にしなかった
 けれども 店へ訪れた翌日に
 立ち寄ってみれば
 ガラス鉢の金魚は配置を変えている
 「これは、すごいぞ!」
 興味本位で店を訪れる町の人や武士たちが増えた

 すると この一帯では六間口ある表店
 タバコ屋の近江屋は、不景気の煽りを受けていた経営が
 少しずつ安定してきたのだ

 これを羨んだ 通りを跨いで真向かいにある
 四間口の鰹節屋、この大野屋が近江屋に対抗して
 うちも何か客寄せの目玉になる物を置こう
 ということになった

 大野屋の主人は仙台城下の名人で彫刻師
 飯田丹下に願い出て 立派な虎を
 掘ってもらう事にしたのだった。
 
戻る   Point(3)