ひとりのメモ/由比良 倖
 
から流れてくるビートルズの歌も、僕が作ったものじゃない。だから独我論は信じない。

 泡、泡、泡、震える泡。
 西陽が当たる、音楽よりずっと強く、鮮明に。



 他人に向けて、自分を演じるのはやめた。

 音楽をヘッドホンで聴いている。聴いているのは脳ではなくて心臓だ。

 リズムやメロディや音色を、指先でなぞっていく。誰にも見せない恥じらいのようなものに、そっと寄り添う。毎日箱を開けては埃を払う。その箱を、僕は死後まで持って行くだろう。
 箱の中には虹が掛かっている。カラフルでモノクロな流れ。感情や、生活の中の喜怒哀楽。微かに遠い場所から、僕の心や身体へと降り注ぐ音の
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