入退院後の日記/由比良 倖
状況次第で簡単に折れてしまう自分の精神を情けなく思うけれど、真夜中、ずっと音楽が付き添っていてくれる、ということが嬉しい。僕は数年間、音楽さえも恐怖の雑音でしかなかった時期があった。
その(看護師さんが入ってきた)瞬間にすぅっと楽になって、点滴を受けていると、ひんやりした海にぷかぷか浮いているみたいな、この世には自由しか存在しないみたいな、地球も何もかも、自由の海に浮いているみたいな、素晴らしい万全感に包まれた。この世界に素晴らしくないものなんて、ひとつも無いように思えた。
入院中、昼間は、ベッドの上に中原中也の『全詩歌集』とノートとウォークマンだけを拡げて、ひとりで音楽と言葉の世界に
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