のれん/そらの珊瑚
朝、いつものようにキッチンに向かう
痛っ、イタタ
キッチンの入り口にぶら下がっているのれんに頭をぶつけた
昨日まで柔らかい麻布だったはずだったのれんが
硬い板状の物体と化していた
一体これは?、と考えている時間はわたしにはない
家族四人の朝食と弁当作りに取りかからねばならない
特に食事作りが好きというわけではないが
他にやってくれる人もいない
主婦の仕事といえばそれまでだが
誰も誉めてはくれないし
休日はないし
ましてや賃金は発生しない
ダイニングとキッチンを何度か行き来するうち
わたしは板状のれんの簡単かつ安全なくぐり方を編み出した
手は塞がっているので
背中からいくのである
のれんに腕押し、ではなくて
押されたのれんはすこし弾んで上に開き
すぐに落ちてくる
わたしはのれんの返り討ちにあわないように
ささっと身を低くして翻る
それを見ていた
ダイニングテーブルでおにぎりを手にした幼い子が
まま、かっこいい
と叫ぶ
のれんはぶらーん、ぶらんと揺れている
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