作り話の内緒話。/チャオ
 
夜から続く朝に、雨の跡はなかった。霧雨は降っている。地上に湿度はない。
細身の女はテレビの中で「昨日の事は忘れて頂戴」
その細いからだの細胞は、今を忘れるためにある。
階段を上がる足音が聞こえる。
こつこつ
足跡が聞こえる。霧雨に音はない。夜が夜逃げした朝は、不完全な温度
コンクリートの匂い。体に染み付いた、鉄製の人間臭。
都会から逃げ出すのは至難の業だ。
八百屋のおじさんは酔っ払いながら、玄関に水をまく。
雨が降ってるのは事実じゃないからね。
どうやら霧雨は降ってない。頭がどうにかしてるだけ。
部屋の前のドアの前。鍵を探すポケットの中の手。
探せないでさまよう手。
手持
[次のページ]
戻る   Point(2)