りゅうのなみだ/はるな
れからもたぶんずっとりゅうのなみだはここにはこない。
チョコレートをくばるのと、自分の体をくばるのはほとんど同じことだと思っていた、でもそうではないし、たとえチョコレートであっても無意味にばらまくべきではない。そこらじゅうで発生する齟齬を埋め立てるためのチョコレートだったかもしれないね。
とうとう空いてしまった蓋から中身を取り出さなければならないと思う。開けなくても良かったかもしれないと思う。開けないで一人で腐っていけるならそれも良かったと思う。でもむすめが、りゅうのなみだを持って帰ってくる。折り紙で作った箱やおばけや、あたらしいなぞなぞや、何度も書き直した作文や、そういうものを持って帰ってくる。わたしのところに帰ってくるのだ(すくなくとも、いまは)。そして、ときどき、ほらおみやげままこれ気にしてたでしょ、と言って、ノブドウの実を摘んで持ってくる。いろんな色があったんだよー。と言って。知ってる、と思う。みてないのに、あのフェンス沿いで、色づいた実をみて、ひとつだけ、と言い訳しながら摘むちょっと汚れてる指先を、知ってる。
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