音楽と精霊たち?/朧月夜
 


「先生、モーツァルトとバッハはどっちがすごいの?」

 単純労働というのは、得てして時に困難なこともある。そんな質問をされると、葉子はどんな風に答えれば良いのか分からなくなる。ただなんとなく、おざなりな答え方はしてはいけないような気がしていた。

 だから、

「今度までに調べておくね」

 と言って回答を保留する。それでも、生徒たちはなんとなく納得してくれる。大学の学生たちと違うのは、音楽の技術を上達させたいのではなく、先生にとにかく何かを答えてほしい、そんな欲求に基づいて質問を発している、というところだった。

 あるいは、

「そう決まっているのよ」


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