幼い頃の夢/レタス
 
私は開襟(かいきん)シャツを着て
路地を左に曲がり
ズボンのポケットから白いハンカチを取り出して
首筋を拭ぐった

家の山茶花の垣根から
割烹着(かっぽうぎ)を着た妻がアイロンをかけ
幼い娘がシャボン玉を吹いている
妻たちは私に気付かず
足早に家の前を通り過ぎた

これでおしまいだという感覚が背中を過(よぎ)る
しばらく彷徨(さまよ)い
雑木林に囲まれた空き地に出ると
真ん中にあらゆるガラクタが積み上げられ
近づくと赤く点滅するボタンがあった

私は戸惑った

このボタンを押せばすべてから切り離され
未(いま)だ見ぬ別世界に行っ
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