abyssal/医ヰ嶋蠱毒
 
底翳の眸で深淵を覗いた先
脳髄を酩酊させる郷愁の蟲が
意識の裏から青褪めた肢を伸ばす
ドス黒い墨を打ち撒けたように
群れを成す陰鬱な夜の眷属の
屍を蒐めて瞼を展けば
銀色の鮫が水面の満月を過るから
貴女の凍る皮膚を愛撫するとき
暗い孔がランタンの燈明をぞわぞわと犯す今
身を投げよ
肺臓から呼気を搾り切った末に齎される
甘い窒息と切創の愉楽
躊躇い疵が問う
「煉獄は視えましたか?」
肉體を満たす
孰れ還るべき母胎の聲
掲げられた箴言を胸に
一握りの啓蒙を孕み沈下する悪夢と
粘る闇に縫合されたトラウマを背に
モノクロームの海で私の肉が啖われてゆく
解剖される未だ温かな記憶の残滓と抹香鯨
骨を埋めて堆積した智を自らの墓碑として跪拝せよ
(此処にホモ・サピエンスの跫音は響かない)
繰返し祈りを唱え白濁する眸の奥の聖性はアビサル
「なあ、溺れるような鐘の音が聴こえるかい」

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