……とある蛙さんへの手紙/服部 剛
──献杯の酒を飲む夜に
* * *
高校三年生の頃、僕は恋をしていた
あんなにも好きだった娘(こ)に
教室で話しかけることもできず
震えながら・・・告白しようとした
夏休み前のあの日
金色の時計を
川に投げ棄てた
社会に出たばかりの頃、僕はでくのぼうだった
どうしても合わない上司がいて
悔し涙の日々を過ごした
退職後に古巣の職場を訪ねた僕と
ダウン症児の息子を見つけるやいなや
彼は駆けつけ、しゃがみ
なぜか息子に優しいまなざしをそそいだ
そんな息子と妻との
笑いと涙のおもしろくるしい物語の日々に
ほんのひと息、妻が出かけた夜
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