彷徨いの計器/ホロウ・シカエルボク
 
床に落ちた鍵には手のひらの切り傷を、コーヒーメーカーは蒸気を吹き上げてる、心臓を病んだ老人の悲鳴のようだ、間接照明のひとつは切れかけている、無音の、ささやかな雷、空気は気象庁が告げたものよりは二、三度は低いように感じる、シフトアップベンチの足元で埃が迷っている、どこかに行ってしまった恋人を街角で探し続ける歌が流れている、窓のそばで女郎蜘蛛が小さな虫を待っている、路面電車の振動、バロウズの寝言、ぼんやりと浮かんでは消えるとりとめもない妄想のせいで、カーテンは虹色の血を流す、レンズの欠けたサングラスとインクの無くなったボールペン、窓の下の小さなテーブルで運命の終わりを待っている、コーヒーメーカ―は仕事
[次のページ]
戻る   Point(1)