初冬の風景 (旧作)/石村
 



何でもないやうな
大したこともないやうな
永遠なるものが流れてゐた。
そこらの小川のやうにゆつたりと流れてゐた。

しめつた、つめたい風が吹き
茜の雲の、一群(ひとむれ)が
彼処(かしこ)の山に、消えて行く。
それは、別段、何と云ふほどのこともないけれど、
何だか、只寂しいばかりのやうなものだけれども、
それを見てゐると、僕は非道(ひど)く胸がへこたれて、
得体の知れない、想ひを想ひだすのだ。
夕暮れ時の郊外の街は坦々と和やかで
道行く人々、走り過ぎる車等、
皆何だか傑(えら)いものに見える。

ああ かうやつて永遠に向つてお辞儀するのは
それは、いかさま苦労ではあらうけれど、
それは必要な、必要なことなのだ、
この上なく大事な、ことなのだ……

既に山々も睡る時候となり
何でもないやうな
大したこともないやうな
永遠なるものが流れてゐた。
そこらの小川のやうにゆつたりと流れてゐた。


     (一九九一年十一月十三日)


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