死ぬということ/花形新次
 
生まれる前は死んでいた
その間も歴史というものは存在し、
偶然に生を受けなければ
私のいない世界がずっと続いていた
なのに何故死を恐れるのか
何十年前と同じように
ただ私のいない世界に戻るだけだ
生きている間に
身についてしまった
色々な付属物への未練が
そうさせるのか?
そうであるなら
死ぬという作業は
それを一つ一つ丁寧に剥がして
元あった場所に戻すことに他ならない
そうして現世への未練を
断ち切り静かに何もない状態に
帰って行く
それが死ぬということだ

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