口笛 (旧作)/石村
 
いつしか秋の色もしみじみ深く
高くさはやかな空のすきまには
うまれなかつた光のかなしみなど
きよくちいさくはりつめてゐる
 こんな日はきみとはなしてゐたいなあ
 いつしよにあをぞらのすみずみをくまなく
 ながめてあそんでゐたいなあ
 はるかの山はねぶたさうだし
 草の匂ひはかんばしい
 ここらの風景はみんな先生のやうだ
けれども私はひとりであるいてゆくのだし
だれしもさうやつてむやみとあるいてみるほかない
かういふきもちのよい教へのかずかずも
まるでモツアルトの音階かなにかのやうに
ほほゑむでしづかに野なかをすべつてゆくばつかりだ
ああ こんないい晴れ空の下の
つつましい、ほんたうの敬虔といふものを
きみに見せてあげたらなんて云ふだらう
だまつて口笛を吹きながら
ふるいふるい夢をおもひだす
これもまつたくのまじめな精神です
    (一九九一年九月二十八日)
戻る 編 削 Point(1)