花だった/朝雪
談めかしてわたしの背中から腰をてのひらで撫でた
あ、
あ、と思った。
花だった。
どうしようもなく、わたしは花だった。
こわいほどに意識したのだ
自分のからだの輪郭を
自分が曲線でつくられていることを
自分が茎であることを
そして
このひとにとってはわたしは花だったかもしれないのだ、と
さいごの日に わたしははじめて 性根の底から思い知った。
いいにおいするね、
と あのひとは云って
わたしはたぶん 口もきけずにバスに乗ったと思う
まとっていたのはあのひとが誕生日にくれた「石の花」
この香水の名にちなんでわたしは花の字を入れた名をなのっているのだ、と
花でなくなったわたしは
とうとう 云えなかった。
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