私とマドリ/妻咲邦香
 
になって空を見上げた私が
意を決して歩き出した
その後ろ姿を見送って、お前は存在の意味を失って
消えた
何の出会いも物語も産み出さぬままに

だけどアマヤドリ
アマドリ
マドリ
お前にだけは出会えた

夕刻を知らせるチャイムが鳴って
私がいつか思い出すのは
今日の雨宿りではないのかもしれない
先に駆けていったあの人こそが
もしかして
お前を思い出すのかもしれない

明日私が風邪でもひいたというのなら
そして熱でも出して寝込んだというのなら
お前は私の中でひょっとしたら
いつまでも、そこに暮らして

理由もなくすれ違うのが好きで
遊びながら生きている
時にはどちらかを傷付けながら
海の上にも雨が降る
受け止める人がそこに誰もいなくても
濡れることすら意に介さぬ鳥がいたとしても

それでも世界に雨は降る
それでも世界は美しい
と言いたい


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