私とマドリ/妻咲邦香
理由もなく濡れるのが嫌で
だから雨が嫌い
蔑まれてでも私を救ってくれた
その人から逃げ出して
遠い軒の下
晴れ間を待っている
だから世界に雨が降る
だから世界は濡れたがる
今日の雨宿りを忘れてしまうなら
これ以上大事なものはもう出て来ないだろう
今日の雨宿りに名前があったなら
私にしかわからないあだ名で呼び合いたい
隣に立っている見知らぬ人と
今にも駆け出して行きそうな人と
最後まで残るつもりの私と
でも私にしかわからないもう一人の名前が
そこにある
濡れながら飛び出していった人を
黙って見ていた
アマヤドリ、お前も見てただろう
ようやく小雨にな
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