小さなメモ/由比良 倖
 
ても、どうしようもなく空っぽになって、もう人の声も届かない。脳が孤独になって、ただ突っ立っていたり、ところも構わず踞ったり。
 音のしない季節の中を、溶けていくだけ。多分、そのためだけに生まれた僕。

 僕の知らない場所で、悲しいことが起こっている。

 薬が効いていると、自分の気持ちが分かりにくくなる。意識が分厚いゴムに包まれているみたいだ。
 薬が心に及ぼす影響。たとえば音楽にうまく入れなくなる。
 あまりに苦しくて、仕方なく薬を飲んでいるけれど、薬が効いている間には思い出せない感情がある。一番大切で、なかなか言葉に出来なくて、おそらくそれだけが、きっと人にも伝わる感情。

 悲しみや寂しさを音に出来たら。言葉に出来たら。

 決定的にひとりだ。人といることは悪くない。特に、好きな人と話すことは、本当に嬉しい。けれど、それで、ひとりぼっちの感覚が薄まることはないし、薄まったと思ったときには、視界に石油の膜が張り付いたような、別の寂しさに陥る。
 自分がひどく薄まっていく。

 でも、死の傍にいるとき、いつでも死ねるとき、僕は何ひとつ怖くない。
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