金魚すくわれ/からふ
く嬉しい気はするけど、何がおめでとう!なのか、何がありがとう!なの
かが分からない。「自分のやった事を胸に手を当ててよく考えなさい」という親
父の怒鳴り声を思い出して自分に聞いてみるが、何も思い出せない。ミス・ブ
ランチに聞こうとするが止める。彼女はとても無口だからだ。
八件目、街の騒音で何を言っているのか聞こえない。クラクションの音、人が
歩いていく音、笑い声。その後ろでかろうじてスキャットの様な物が聞こえる。
俺だった。息を荒立てて途切れ途切れに歌っている。歌はとても小さくて、音
痴に生きていた。
九件目は聞かずに消した。どうせミス・ブランチからだ。いつもの事だった。
また手紙を待ちきれず、電話を入れたのだろう。ミス・ブランチの水槽にいつ
もより遅めの餌を入れた。でも、やっぱりミス・ブランチは食べなかった。水
槽の中だけが彼女の世界だからだ。この部屋の中で、俺はミス・ブランチだっ
た。俺は部屋の中でゆうゆうと泳いでいる。
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