羊の話1/由比良 倖
 
。いや、是非そうしたいですよ」
帰り際、大分酔いが回ってきた羊さんは、職業羊さんに紅潮した顔を向けて、まくし立てました。
職業羊も大分赤くなった顔で、
「うんうん、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。俺は礼なんか要らないから、その代わり君がまた誰か、今日の君みたいに落ち込んでる羊を見たら、そのときは酒でも奢ってやれよ」
と言いました。羊駅で、別々の電車に乗るためにふたりは分かれました。
帰りの電車の中で、職業羊さんは「俺は、いいことを言ったかなあ。あいつは危なっかしい羊だなあ」と思いましたが、すぐに眠ってしまいました。
羊さんも電車に乗っていました。電車は満員に近かったので、羊さんは立って
[次のページ]
戻る   Point(0)