野球/ちぇりこ。
 
野球の音が聴こえる
野球をする音が聴こえてくる
誰もがみんな
胸の中に野球を飼っている
整備の行き届いた市営グラウンドから
夏草の生い茂る河川敷まで
球足の早いゴロが一 二塁間を
抜けてゆくように夏がきても
(わたしたちは決して
夏を手放さなかった
早朝の輝くプラットホームへ
シャッターの開かない商店街へ
栓の抜かれた学校のプールへ
外野を転々と転がるように
(わたしたちは決して
夏を見逃さなかった
神社の細い石段を駆け上がり
湿り気を帯びた風にあたる
紅潮した空間で
引っ掛けるとわかっていても
外角へ沈む球に反応する
ラッシュアワーは繁忙を装い
それが夏の比喩だとしても
空と地面しかなく
細胞分裂する
胸の地平から
野球をする音が聴こえてくる

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