羊飼いの夜/大覚アキラ
 
おさなごも仔犬も猫もみな眠る
夜明けまえのしずけさのなか
辞書にのっていないことばで
この世界に祝福をあたえる

冷蔵庫の扉をひらくと
星のない夜の焚火みたいに
ささやかな光がキッチンにこぼれて
歩き疲れた旅人が傍に腰をおろす

ひときれのパン
コップ一杯のミルク

あなたは
遠い国の会ったこともない誰か

わたしは
ちいさな島国の名もない誰か

わたしたちは
辞書にのっていないことばで
誰も知らないうたを口ずさむ

ここには
銃声も悲鳴も届かないから

目をとじて
ちいさな青い花が
ゆっくりと開いていくところを
思い浮かべることができたら

おやすみなさい

あなたはもう
どこにだって行けるから
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