出生後のはなし/万願寺
だということはわかった。薄い水の色というのは透明よりもっと薄いということで、物分りだけやけにいい性質。餓えるほどに光がこちらを向くのを待ち、それが無いとなると、ひたすら暗闇を歩いた。そのみち、こわくないようにと、自分で作ってうたった歌が、何枚も譜面となってうしろに落ちた。
私の体には蔦のあともわからないほどくろぐろとした闇が灯り、とうとう動かなくなるときが来る。その度に誰かが譜面を拾ってうたって呉れる。そうだった。私は。
暗闇も歌えば、光ほどのかがやきではないけれど、たしかに音が色を表す。
そんなふうに今は子供たちに教える。
きみを受け止めた手はきみの色を殺したかもしれないが、きみの歌が、ひきあう魂をきっと塗り繋げる。
だから急げ。
動けなくなっても、急げ。
光のないあちらへ、進んでそして音を鳴らして、逃げろ。生きろ。歌え。
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