鹿くん/はるな
 
と宣言すると、もう少し喋ろうよ、と悲しそうな顔をした。それでそうした。
あのとき怒ってるのかと思ったよ。と言うとき、鹿くんはちゃんと悲しそうな顔をする。あんまり帰ろうとするから、怒ってるのかと思った。と言う。そのあいだもすいすいとなんらかのお酒を飲んでいて、でも全然酔ったりしない。
それより見て、うちの近所に鳩が住みはじめたんだよ。わたしは鳩の写真をみせる。雨の日に、軒下でうずくまる、まるい二羽の鳩だ。ここに住まれたら大変だなあ、とおもったのだ。

あ、ほんとだ。
つがいで住んだね。

鹿くんは、うれしそうに言う。
すとん、と落ちる音がする。すとん、すとん、と、心地よく落ちていく。こんなにあかるい底があっていいのか、と思うほど、すとん、すとん、すとん、
と落ち続ける。
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