trace/完備 ver.2
 
満員のバスに
押し込める体の
内側で
すこし壊れるたましひ、
これは本当に
きみに抱かれるのと同じ
体か
曇る眼鏡
街を打つ、
倫理的ではない雨
知らない人の手が
ピアスを掠めて
最後に痴漢された日から
思い返す、今日まで

たとえば、換気のために
すこし開いた窓から
スマホの画面に降った雨粒がレンズになって
白い画面から赤や緑を
分光するとき
たとえば、きみの
「霊の苦み」なんていう
大げさなレトリックや
詩を書かなくなって長い、彼の
論文に残るかすかな 痕跡

ひかり、という言葉を
胸のうらで繰り返す
詩の跡を探して
誰かの名前みたいに
ひかり、と
ひらがなで書く
たとえば、彼に貰った積分を
計算しているノートの
まんなかに、
かたすみに、
あるいは夢のなかで立つ
波打ち際に何度も
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