ザギ氏の誘惑/アラガイs
 
ら太った中年女性が背中を力いっぱいに押した。男は下を向き、うなだれたままよろよろと仕方なく歩いて行った。

あくまでも自分を手品師だと言い張るザギ氏の館は、ここから細い路地を抜けて左へ犬の脚に曲がる。二車線の道路が見えてくるその角にあった。
「天井の館」そう呼ばれている屋敷は大正時代に建てられた立派な旧家だった。しかし市長の役職を務めた祖父が亡くなってからは広い庭も草に覆われ、壁や囲いの板垣も朽ち果てている。この古い二階建ての館は、まるで物の怪の住み家となっていた。

延び延びにされた蔦の門を抜けると住民の一人が戸を開けろとザギ氏に指図した。
洒落たスーツのポケットから渋々と鍵を取り出
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