アンタレス/服部 剛
 
最終の江ノ電を降り
乗車券を車掌(しゃしょう)に渡す無人駅
夜の海を横目に歩き
潮騒(しおさい)を背に
なだらかな墓場の階段を上る

振り返ると
西の夜空に暮れる三日月
眠る魔女が閉じる鈍い光の瞼(まぶた)

丘の上では
幼子を抱く白いマリアの足元で
小さき花が言葉もなくさやかに揺れ

古びた一軒家に
安らかな寝顔で夢を見る老人の傍(かたわ)ら
開け放たれた窓の縁(ふち)に
ひっかけたTシャツは
丘の下から
唸りのぼってきた潮騒に押され落ち
血管の浮き出た細腕を覆う

眠る老人の細い寝息ごとに
脳裏の部屋に浮かぶ
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