雨唄の夜/服部 剛
 
いつのまにか日が暮れた帰り道
ダウン症をもつ周を乗せた
デイサービスの送迎車の到着に
間に合うよう、早足で歩く 

前方には、小刻みに歩く青年が
重そうなビニール袋をぶら下げて
ゆっくり、休み休み、歩いている
ああ、追い抜かねばならない

胸の苦さに
速度を緩め、離れ、進み
曲がり角でふり返った時 
青年の姿はすでに小さくなっていた

家に着いた
周が車から降りてきて
パパにハグをする
後ろから支え、二人三脚で、階段を上がる

階下で
玄関のドアが開く音がする 
「ただいま」
ママが周の頭を、なでる

    ***

この詩を綴っている今、隣の部屋から  
落ち着かない周の口に食事の匙(さじ)を運ぼうと 
格闘する妻の唸り声が聞こえて 
思わず私は、腰を上げた

――あの青年は家に着いたろうか

窓外に、何かを囁くような
雨がふり始めた










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