雪降る春/坂本瞳子
 
春に雪が降るというのは
珍しいかもしれない
けれど降ることはある
そんなことが過去にあったのを
覚えている
ただ覚えているだけで
それ以上に特別なことが
あった訳ではない
春に雪が降った
ただそれだけのこと
桜の花弁と見間違えてもいないし
その中で誰かに出会ったとか
その中で誰かと別れたとか
笑いあったとか
喧嘩したとか
涙を零したとか
そんなことはまったくなかった
けれども
誰かとすれ違っていたかもしれない
そんな風に思いたい
あの人だったらいいなと思う
そんな人がいる
そんなことに気づいた五月
そして六月は
例年のように鬱陶しく感じてはいない
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