愛した人よ。/印あかり
 
愛した人よ。僕は光さんざめく山道を歩いている。
霜が溶けて濡れた土の匂いが、僕らの約束を祝福している。

赤い車は麓に捨ててきた。君をいつも助手席に乗せていた。
僕らは片時も離れ難かった。君の舌は冷たかった。恐らく僕の舌も。
膿んだ心の傷は、君の舌がつねに触れていないと熱くて痛くていられなかった。

額を拭う。汗は生きている証のようで嫌いだ。
朽ちかけの祠の中の地蔵は、細く目を開けている。その瞳の薄暗さに呑まれそうだ。でも僕は約束を果たさなければならないから、神や仏に打ちのめされてはならない。

君は僕に、生きて幸せになってねと言い、次の日には一緒に死んでと言い、
僕は血塗れ
[次のページ]
戻る   Point(4)