思想/岡部淳太郎
 
思想というものについ
て考えてみた。それは四角くてどこでもないものだ。
サイコロのように四角く切り刻まれた、融通の利かな
い肉片。そして自らの正しさだけを信じて他の考えを
受け入れられないから、どこにも行けない。それが思
想というものの悲しい現実なのだろう。そんなふうに
考えていると、思想はこちらの心を見透かしたかのよ
うに、いきなり罵倒の言葉を連続で喚き始めた。私は
多少の憐れみの気持ちで思想を見つめた。もうおまえ
の居場所はないんだよ、人々はもっとふわふわした、
漂う空気のような曖昧さを必要としているんだ。おま
えじゃない。おまえみたいな硬いものじゃないんだ。
どうせ誰からも見限られ、どこにも行けないのなら、
私が死なせてあげよう。私はなおも喚き罵倒しつづけ
る思想を、手のなかでゆっくりと握り潰していった。



(二〇二一年十二月)
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