思想/岡部淳太郎
 
足下に何かごつごつごろごろした硬いものが転がって
きていて、何だろうと思って拾って見てみると、それ
は一個の思想だった。そいつは手のなかでいきなりよ
くわからないことを喚き出したので、びっくりして思
わず放り出してしまった。すると思想はごろごろと転
がり、跳ねるように移動していった。そしてまた新た
な人の手のなかに収まると、同じようによくわからな
い異星の言語のようなことを怒ったように喚き出す。
そんな言葉を理解出来る人間など誰もいない。それで
もかまわず、思想は転がって飛び跳ねて、道行く人々
に向かって懲りずに喚きつづけるのだ。その様子を眺
めて、理解の追いつかない頭で思想
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