汽水域/山犬切
 
しい 俺がここでくだらない近親相姦のタブーを犯して姉と合体したら毎日の幾分の嫌悪を確かに含んだ習慣の世界からも解放されて、きさらぎの太陽が水面でゆらめく瞬間ごとに変幻する再生の海に漕ぎ着けられるのではないか? 社会に定義されたルートである、ちっとも近づかない丘の見える道を歩くという真綿で締め付けるような塩辛い忍耐と苦行から解放されるのではないか? 僕は迷ったがそうせず藍色の水玉模様の前開きのパジャマを姉に着させて作業を終え、古今和歌集を読んで寝た
翌日、雪がこんもりと桜に降り積もっていた ブルーシートの上で姉が作った弁当の甘く綺麗に黄色いだし巻き卵を食べていると、南風が僕らを撫で回した 「甘いね」 姉は笑顔でそう言った。
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