汽水域/山犬切
三月、姉と一緒に歩くコンビニ帰りの冬道では雪が降っていた 夜気で烏賊墨がかかったように黒い近所の景色がこんこんと降る雪で白く塗り替えられていく様子はそれだけで普段と違うちょっとした非日常だった 姉はおもむろにマンションの横の道で積もった雪を丸めて黒い虚空へ投げつけ、熱い息をついた 寒い夜はとても熱く感じられる 「ねえ、雪だるま作ろうよ」 姉は元気に言い、雪を?き集め始めた 姉は普段、僕などがまず読まない難解で高尚な哲学や人類学の本を読んでいる人だった 勉学に励む姿勢が他人より際立っていて、知識を深く愛していた 姉には韜晦癖のようなものがあり、僕含む家族にも自分の付き合っている男の匂いを全く感じさせ
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