星涯哀歌 1/佐々宝砂
 
ウルが帰ってきたと誰かが言った
わたしは黙って
カペラ産の苦い酒をグラスに注いだ

酒場はさっきからウルの噂で持ちきりで
ウルと話したことがあるという
地球生まれの男が
まるで自分がウルであるかのように
ウルの武勇伝を語っていた

ああ でも もしも
ウルが帰ってきたというならば
遠い黄色い小さい太陽に
自ら飛び込んでいったのは誰?
火星の血と金星の血と地球の血を
みな高温に蒸発させてしまったのは誰?

席を立って
化粧室で鏡をのぞけば
顔だけは美しく若く整えられた
老いた女がこちらを見返す

戻ってみると
酒場は静まり返っていた
中央のテーブルに
小さな箱が
濡れたように黒く穴のように暗く

ウルが帰ってきたと誰かが言った
これがウルだと誰かが言った
わたしは黙って
カペラ産の苦い酒をひといきで飲み干した


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