深海で暮らす/ちぇりこ。
けれど
他の住人に出会ったことは無い
引越しの挨拶を兼ねた粗品のラップは
キッチンで気まずく沈黙する
水を溜めたシンクに
笹舟の代わりのレシートを浮かべる
そんな暮らしの背後に
雨の季節がくる、六月の
夜半から降り出した雨は雨足を強めて
午前二時を回るころには
骨格に逆立つ鱗、皮膚は表面張力を失う
水の底、沈殿する夜、夜中
こんな夜中だというのに、その人は
水、そのものでした
ぼやけた視界の先
夜と水の輪郭が混じり合う
水溶性の玄関の歪む先に
その人は居た、真夜中の
突然の来訪者に驚いたぼくは
水を打ったように、しん、となる
その人は、ぼくの部屋の
真
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