月夜の晩に/shura
な口調になってくる。
―やめてくれ。愛してるから。なっ そんなことすんな
よく見ると女が手にしているのは石鹸だ。
石鹸をなにかナイフのようなもので削っては口に運んでいる。
ぶくぶくぶくぶく女の口から泡が吹き出し、しゃぼんが舞い始める。
半狂乱になって喚いていた男の声が小さくなる。
口はパクパク動いている。だけど声がすぐに消えてしまう。
見るとしゃぼんの中に男の吐き出した言葉がすっぽり入って
ふわふわ浮いている。
「愛してルーッ」
と何度も叫んでいるらしい。
『して』と『愛』と『ルーッ』が交錯しながら、ふわりふわりと宙に舞う。
これまた月明かりに映えて美しい。
そのうち『して』は空高く舞い上がり、『ルーッ』はクルクル回って
風に飛ばされてしまった。
『愛』はどこに行ったのだろうと思ったら、地面にみんな落ちていた。
男は丸坊主の頭を抱えてうずくまってしまった。
女は月を見たまま、相変わらず泡を吐き続けている。
ザリガニが『愛』をはさみで拾い上げて、黙々と向こう岸に行進
していく。
犬が月に向かって一声吼えた。
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