「解放」の淋しい心地良さ/岡部淳太郎
 
頃に「大きくなったら何になりたいですか」という設問がある。それに対して子供たちは何の疑問もなく、男の子であれば野球選手になりたいとか、女の子であればお花屋さんになりたいとか言うのだが、それは自らを規定する元を子供の頃から意識させるということに他ならない。誰も「大きくなったら自分自身になりたい」などとは言わない。自分自身のままでは社会は人を認めてはくれないからだ。だが、ここに社会というものの大きな落とし穴が潜んでいる。何かが人を規定するということは、言い換えれば人を本来の性質から離れさせて自らの性質の中に取りこんでは歪めさせるということでもある。夫婦は夫として妻としての役割を互いに求めるし、会社は仕
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