遠い手/塔野夏子
 
遠い手が
わたしに触れている
触れているのにその手は
遠いままで

けれどその遠い手は
わたしに触れている
遠いままで
たしかに しずかに

遠い手の持ち主は
知らないだろう
遠い手として
いまわたしに触れていること

けれどそれでも
わたしに触れているこの手は
その遠さこそ
かぎりない慈しみで

しずかに たしかに
伝わる遠い温度は
不思議ななつかしさを
湛えて

思わせる
いつかわたしも遠い手として
誰かに触れる/触れた
ことがあると


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