きれいなものたちへ/由比良 倖
、
此岸も彼岸も、みんな病人の、白い息みたいだった。
近くを歩く誰かの、冷たい濡れた手。その手を怖れていた。
*
今私はここにいて、秋風のもろに当たる椅子にうずくまり、
愛された楽器のように乾いて、湿った、誰かの手を求めている。
、とっくに諦めた、諦めを反芻している。
*
ショッピングモールの中で孤立していた私。
あなたは孤立することなく、カードを誇らしく出して、私に微笑んだ。
*
風が吹いていると、懐かしい気がして、心が少し柔らかくなる。
そして私はひとりぼっちになる。 小さな小さな私を感じる。
風に、紐の栞が揺れている。それを見ていると私は「リアル」という、
身に染みる、夢の中にいて、何処にいたって、誰といたって、
必ず私が戻ってくる、故郷を感じる。……それは夢?
誰か、誰か……その誰かを私は知らない。
戻る 編 削 Point(2)