きれいなものたちへ/由比良 倖
 

此岸も彼岸も、みんな病人の、白い息みたいだった。

近くを歩く誰かの、冷たい濡れた手。その手を怖れていた。


今私はここにいて、秋風のもろに当たる椅子にうずくまり、
愛された楽器のように乾いて、湿った、誰かの手を求めている。
、とっくに諦めた、諦めを反芻している。


ショッピングモールの中で孤立していた私。
あなたは孤立することなく、カードを誇らしく出して、私に微笑んだ。


風が吹いていると、懐かしい気がして、心が少し柔らかくなる。
そして私はひとりぼっちになる。 小さな小さな私を感じる。
風に、紐の栞が揺れている。それを見ていると私は「リアル」という、
身に染みる、夢の中にいて、何処にいたって、誰といたって、
必ず私が戻ってくる、故郷を感じる。……それは夢?

誰か、誰か……その誰かを私は知らない。
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