うらなりの双眸/あらい
 
長い長い廊下のおさきにあるという
その歩道橋は吹き抜けて星空に抱かれていた
このエスカレーターは今も上昇中である
ただ生暖かい風にのってカレらを何処へ誘うのだろう
ワタシはお花畑へ征く路地裏に耀くネオンサインの
小さな珈琲店で
一篇の口伝を交換したのはいつだったのか
記憶の片隅に馨る母親の姿を探している幼児が
ぼくだったのかきみであったか、
見つけ出せないでいた
スライドする端末から引き出される記述を
おもむろに書き足すように
事あるごとに自らを傷つけては膿んでいく
そんな父や母の面影であろうか
未だ薄闇のその背の赫だけはハネのようにさかえて見える。
この爪を立て己を
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