件名瘡/妻咲邦香
 
貴方に参ったと言わせたいが
荒れ地に種も蒔きたい
二重の線で消したいが
全部薬だと知った

名前を与えてしまったら
その瞬間から傷口が広がる
紙の埃を吸い込んで
苦しいから文字は踊る
毛の無い足で痩せこけて
色褪せて灰になるまで
頭蓋骨の中に暮らしていたけど
嫌になって這い出した

パン生地を捏ねる
ベンチタイムを待つ間
一度沈んだ夢が再び浮かび上がる凪の合間に
船長は逃げた
見張りに聞いたら黄金郷は逆だと言う
ヒロインと駆け落ちでもしたのか
書いても書いても満たされないのは
満たされないことを書いているから
そう耳打ちしてくれたのは行間だけで
もっと
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