宮村さん/ちぇりこ。
 
まだ、地域猫と言う概念のなかった遠い昔、
ぼくの住む小さな漁村にキジトラの、年老いた猫がいた、猫、と呼ぶにはあまりにも堂々とした体躯、しなやかさ、とはかけ離れたふてぶてしいcat walk、ぼくはその猫を密かに「宮村さん」と呼んでいた、宮村さんは漁師の家々の間口から間口へ、漁で上がった魚の*しごー(方言で、処置、整理、片付け、ここでは魚を下ろすの意)した後の捨てる部位を貰ったり、時には夕飯のおすそ分けを頂いたり、漁師たちは、宮村さんが来ることを想定して、玄関の戸を少し開けていたり、宮村さんの居る風景は、漁村の一部だった、漁村そのものが宮村さんだった

よく晴れた日、乾いたセメントの上、宮村さ
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