廃線跡/妻咲邦香
私が走らせた蒸気機関車は、よく知る町を通り抜け
床屋の駅を出発し、歯医者の駅を通過して
商店街が途切れた所で、踏み切りとぶつかった
動けなかった
驚いて見上げた先に
もっと大きな蒸気機関車が止まっていたからだ
見知らぬ町を目指す筈の、本物の機関車
乗せていってはくれないか
かわりに私の町を見せてあげよう
友だちに話しても信じて貰えない
父や母にも笑われた
とっくの昔に廃止された蒸気機関車
私にだけ見えたその姿は、決して夢なんかじゃない
見惚れていた
固唾をのんで声も出せずに
その圧倒的な存在感
止まっているにも関わらず、絶えず煙突から煙を吐き続けてい
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