ハーレスケイドでの戦い(十)/朧月夜
「敵を滅却したのであれば、それで良いではないか。
思いのほか、あっけない敵だった」そう、アイソニアの騎士は言った。
そこには、ふてぶてしいという感じは見当たらなかった。それは、歴戦の勇士の言葉であった。
しかし、ヨランは恐れに震えていた。
「お前が今使ったのは、何だ? お前には魔術は使えない、と、いつか言っていたな?」
「そうです。わたしには、魔術は使えません。ですが、そのことが恐ろしいのです」
「何を言う。たいそうな手柄ではないか、お前は巨大な敵を葬ったのだぞ?」
「相手が世界でも、ですか? 騎士様……」
盗賊ヨランが言う。そこで再び、アイソニアの騎士は当惑する。
「世界? お前が使ったのは、単なる魔術ではないのか? 魔導士として目覚めたのでは?」
「わたしには、魔術は使えませんでした、騎士様。……すなわち」
目を白黒させるアイソニアの騎士を前にして、盗賊ヨランは真実を伝えるべきか否かを悩んだ。
(この旅、あるいはわたしどもを破滅させるための旅かもしれませんよ? 騎士様……)
そう、ヨランは心のなかで反復していたのである。
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